「犬は勘定に入れません…あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎」, 衆議院議員選挙のこと, ところで
「犬は勘定に入れません…あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎」
コニー・ウィリスさんによる、ヴィクトリア朝タイムトラベル・ラブコメディ (とあとがきに書いてある)。このお話を読んでいる最中 (特に前半)、「スラップスティック」という言葉が頭に浮かんだんですけどこれって死語?(笑。
さてさて、このお話は主人公のネッド・ヘンリー君がタイムパラドックスとそれによって引き起こされるかもしれない時空連続体の崩壊を防ぐべく奮闘する、という話なんですが、時空連続体が一般に考えられているような受動的な物ではなくそれ自体に自己修復能力があって…という展開はちょっと新しいカモ1。万物の理論たる物理学と自由意志の問題、また量子力学の観測者問題 (不確定性原理) なんかも深いところできっちり織り込んだ出来の良い時間 SF だったと思います。作中、主人公とヒロイン・ヴェリティを始めいくつものロマンスが盛り込まれていて「ラブ」要素もたっぷり。ブルドックのシリルといじわる猫プリンセス・アージュマンド (ジュジュ) の掛け合いも面白可愛く、猫好き、犬好きな方も大満足。とっても楽しかった!
ところであとがきで知ったのですが、この本は「ドゥームズデイ・ブック」という本とシリーズになっているのだそうですね。「犬は〜」が完全な喜劇だったのに対して、「ドゥーム〜」の方は悲劇なのだとか。一般にシリーズ物というとそのテイストは一貫しているものが多い中で、片や悲劇、片や喜劇、というのも珍しいような気がします (ちなみにシリーズ三作目の「All Clear」はロンドン大空襲を扱ったもの、ということで悲劇になるのかな?)。同じ作者の「航路」ともども読んでみたくなりました。もちろんこの本の元となったジェローム・K・ジェロームのユーモア小説、「ボートの三人男」もね!
衆議院議員選挙のこと
小泉首相の「郵政解散」により 9 月 11 日に衆議院議員選挙が行われることになりました。各所のブログでも皆いろいろと議論をしているようで、いろいろと参考になることも多いです。
ただ、そのようなブログを読んでいて一つ感じたことがあります。ネットで小泉首相支持を表明しているブログのほとんどは、「郵政民営化は日本にとって必要な政策、だから今回は小泉支持」という論拠なのですね。どのサイトも、僕から見ると不自然なほど、郵政民営化以外の政策については言及されていません。
今回の解散がたとえ「郵政解散」で選挙が「郵政民営化選挙」だったとしても、行われるのはあくまでも4年間の任期を持ち、郵政民営化法案以外にも様々な法案を議論しなければならない衆議院議員の選挙のはず。「郵政民営化法案国民投票」ではありません。郵政民営化がどれほど重要な政治課題だったとしても、今後4年間それだけを議論し続けるなんてことはあり得ないはずで、またあらゆるトンデモ法案が通ってしまうかもしれない可能性を考慮してもなお通すだけの価値のある法案だ、なんてこともあり得ないでしょう。小泉さんのやり方が、圧倒的に大きな存在感のある論点で他の論点をマスキングし、選挙自体の意義を矮小化するという手法 (言い換えれば、衆議院議員選挙という本質的にわかりにくいものを、郵政民営化国民投票のようにわかりやすいものに変えて国民をだますやり方) のようにも見え、僕には少し気持ちが悪いです2。
小泉さんはこれまでも与党総裁であり為政者であったわけで、郵政民営化以外の部分でもこれまでのものから大きく逸脱したことはしないはず、という暗黙の前提があるが故なのかもしれません。ただこの点にも僕は多少疑問があるのです。これまで与党自民党内には、小泉さんが総裁だとは言っても小泉さんとは異なる考え方を持ち、異なる意見を持った方が大勢いました。今回の郵政問題でもそうだったように、小泉さんはご自身の行いたい政策について党内のそういった異なる意見の持ち主と調整をしないことには前に進めず、そのことが改革の進みを遅くした反面、政策が必要以上に先鋭化してしまうことを防いでいた面があるのではないかと思うのですね。今回の選挙でいわゆる「小泉自民党」が大勝し政権を取った場合、今まで以上に「小泉色」の強い政権が誕生し、与党内にも小泉さんに反対する人たちがほとんどいなくなってしまう、というような状況になってしまうかもしれません。そうなると、これまで与党内反対派の存在により保たれていたバランスが崩れ、これまで以上に先鋭化した政策が次々に実行される可能性があります。
そもそも小泉さんの政策に賛成、という人にとっては杞憂に聞こえるのかもしれません。ただ僕は、「これまでの小泉さん」と「今回の選挙に大勝した後の小泉さん」が全く異なる政策を打ち出し始める可能性も0ではないように思えるのです。反対派の多数いる自民党内にあってすら、「国民の圧倒的支持」を背景に小泉さんは強大な力を誇ってきました。それがさらにエスカレートするという状況は、(たとえだれがその力を持つことになる場合であっても) あまり良いことではないような気がするのです。単なる杞憂ならば良いのですが…。
ところで
ほとんどちゃちゃだけど、たとえ今回の選挙で小泉自民党が大勝したとして、衆議院で郵政民営化法案が可決されたとしても、参議院のメンツは変わってないわけでまた否決されちゃう可能性ありますよね。その場合再度衆院で 2/3 以上の賛成が取れれば良いみたいだけど、さすがに小泉自民党+公明党で衆院の 2/3 を取るのは難しいんじゃないかなぁ。
まぁ「大勝した」という段階で無視できない民意がはっきりするわけで、それによって参院の状況も変わる (要は反対派を封じ込められる)、というのが小泉さんのシナリオなのかしら。